ベジタリアニズム (vegetarianism) とは、健康、道徳、宗教等の理由から動物性食品を排する主義・思想のことである。幾つかの公式な団体(後述・ベジタリアンの分類参照)では、菜食を中心とした食事を実践する人々の総称がベジタリアンと定義されている。菜食だけ、菜食でも球根などの排除の有無や、卵と乳製品を摂ることの有無などに応じて様々な分類がある。
目次
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アメリカ栄養士学会の定義によると『ベジタリアンとは、動物性食品を避け、穀物、豆類、種実類、野菜、果物を中心に摂る人』である。ベジタリアンは摂る食物により名称と定義がなされている(ベジタリアンの分類)。
国によってはベジタリアニズムはポピュラーな選択肢である。インドでは国民の31%がベジタリアンである[1]。 その他にアジアでは台湾が10%。欧州のイギリスで2000年の調査では、国民の9%がベジタリアンである。同年の調査でカナダでは成人の約4%がベジタリアンである。[要出典] しかし、これらは合衆国の2000年の調査で、成人の約2.5%が肉類や魚類を一切摂らないベジタリアンというが統計があるが、2.5%の内、9.4%をラテン系が占めているという誤統計が考えられる内容も加わっている例などがあり、正確性は不明である [19]。
元々ベジタリアンという言葉は、1847年9月30日の英国ベジタリアン協会[2] の設立の際にラテン語 Vegetus(活気のある、生命力にあふれた)をもとに英語の野菜 (Vegetable) の単語とかけて作られた言葉である[3]。それだけでなく、禁酒も含んだ食生活全般の節制を指した。当初は、この活力ということが強調され倫理的側面を持っていなかった。後にベジタリアン協会は、動物実験や動物を殺傷して生産される絹や革製品に反対するなど、社会全般の改革運動を奨励するようになる [4]。日本では明治時代に菜食主義と訳された。
紀元前のギリシャではオルペウス教の輪廻思想によって、動物と人間は同等である為に菜食を実践した。当時、菜食主義者は古代ギリシャの哲学者で菜食主義者であったピュタゴラスにちなんで、ピュタゴリアンと呼ばれていたが[5]、野菜のベジタブルと語呂の良いベジタリアンがこれに取って代わることになった。
精進料理は倫理的な戒律を守るという意味が元である。
[編集] ベジタリアンの分類
ベジタリアン発祥の地である英国の、世界で最も歴史ある菜食団体であるベジタリアン・ソサエティーや、国際ベジタリアン連合、日本ベジタリアン協会は、ベジタリアンを菜食だけ、または菜食に加えて本人の選択により卵と乳製品を摂る人々をベジタリアンと定義し、動物肉(牛肉・豚肉・鶏肉など)・魚介類を食べる人々はベジタリアンとしていない。
また、マクロビオティックは完全に動物性を排した食品の生産流通[6][7]までが組織化されているように、原則としては動物性食品を食べない。欧米ではじまったベジタリアニズムでは後述するように卵や牛乳を許可する場合がある。一方で、マクロビオティックでは基本的には動物肉だけでなく卵や牛乳を不可としているが陰陽調和の思想によりそれらを許容することがあったり、身土不二の原則により手で捕れる程度の魚介・小魚を許容したり、欧米のベジタリアニズムとは違う思想を持つ[8][9][10]。
名前 | 動物肉・魚介類 | 卵 | 乳製品 | 蜂蜜 |
---|---|---|---|---|
ラクト・オボ・ベジタリアン | × | ○ | ○ | ○ |
ラクト・ベジタリアン | × | × | ○ | ○ |
オボ・ベジタリアン | × | ○ | × | ○ |
ヴィーガン | × | × | × | × |
世界で最も歴史ある菜食団体である英国ベジタリアン・ソサエティーや、国際ベジタリアン連合によると、ベジタリアンは、鳥獣の肉、卵、魚介類及びそれらの副生成物(ラード、ヘット、ゼラチン、肉エキス、鰹節・鰯・エビ等の出汁、魚を殺傷して得た魚卵等を含む)が含まれるものを口にしない人々と定義されている[11][12]。
またベジタリアンの中には食物の選択にとどまらず、開発に動物実験を要した薬品や化粧品などの使用を避け、動物を殺傷して得られた製品(皮革製品・シルク・ウール・真珠・珊瑚等)を身につけないといった習慣を選び、動物の搾取を極力避ける者もいる。
下記は、国際ベジタリアン連合や日本ベジタリアン協会が定義するベジタリアンの分類である[12][13]。
- ラクト・オボ・ベジタリアン (Lacto-ovo-vegetarian) 乳卵菜食
- 乳製品と卵は食べる。
- ラクト・ベジタリアン (Lacto-vegetarian) 乳菜食者
乳製品は食べる。チーズは乳製品であるが、牛を屠畜して胃を取り出して消化液を集めたレンネット(凝乳酵素)を使用して作成されたものは食べない。
- オボ・ベジタリアン (Ovo-vegetarian) 卵菜食者
- 卵は食べる(鳥や魚介類などの違いは問わない)。無精卵に限り摂る人もいる。
- ヴィーガン (Vegan) 純粋菜食者 完全菜食主義者
- 乳製品、蜂蜜等も含む動物性の食品を一切摂らず、革製品等食用以外の動物の利用も避ける人々。ヴィーガンは、20世紀半ばになってVeg (etari) anを短縮してつくられた造語である。
- ダイエタリー・ヴィーガン (Dietary Vegan)
- ヴィーガンと同様に、植物性食品の食事をするが、食用以外の動物の利用を必ずしも避けようとしない。日本語の菜食主義者のイメージは、むしろダイエタリー・ヴィーガンに近いと思われる。
- ピュア・ベジタリアン (Pure-Vegetarian)
- 西洋では主にヴィーガンと同義で使われるが、インド社会においては後述するラクト・ベジタリアンかつラクト・オボ・ベジタリアンでない(乳製品は摂るが卵を食べない)人々を言う。
- オリエンタル・ベジタリアン (Oriental Vegetarian) 仏教系の菜食主義者
- 菜食主義であるが、五葷(ごくん。にんにく、にら、らっきょう、ねぎあるいはたまねぎ、あるいは浅葱)を摂らない。食用以外の動物の利用を必ずしも避けようとしない。
またベジタリアンの要素は満たしているものの、国際ベジタリアン連合が紛らわしい用語としているものにフルータリアンがある。
- フルータリアン (Fruitarian) 果食主義者、果物常食者
- ヴィーガン (Vegan) との違いは、植物を殺さない食品のみを食べること(リンゴの実を収穫してもリンゴの木は死なないが、ニンジンは死んでしまう)。収穫しても植物自体を殺さないという考えに基づいて食物を食べる人々。果物、トマト、ナッツ類等、木に実り植物自体の生命に関わらない部分を食べる。より厳格に熟して落ちた実しか食べない人々もいる。
下記は、ベジタリアン発祥の地であり、世界で最も歴史ある菜食団体である英国ベジタリアン・ソサエティーや、国際ベジタリアン連合、日本ベジタリアン協会がベジタリアンと定義しない人々(動物・肉、鳥、魚・甲殻類などを食べる)のグループである。 [14][15] 国際ベジタリアン連合では、定義を混乱させる用語として[16]、ベジタリアンではない人々をスード・ベジタリアン(Pseudo-vegetarian:擬似ベジタリアン)と定義している[17]。 国際ベジタリアン連合(日本語版)では、紛らわしい用語として説明されている[18]。
名前 | 動物肉 | 皮・油・血 など (肉以外の動物食品) | 卵・乳製品 | 魚介類 | 植物 |
---|---|---|---|---|---|
ノンミートイーター | × | △ | ○ | ○ | ○ |
ホワイト・ベジタリアン | △ | ○ | ○ | ○ | ○ |
セミ・ベジタリアン | ● | ○ | ○ | ○ | ○ |
ペスクタリアン | × | × | △ | △ | △ |
マクロビオティック | × | × | × | × | △ |
- ノンミートイーター (Nonmeat-Eater)
- 牛・豚・鶏などを食べない非肉食者。卵・乳製品・魚介類は食べる。
- ホワイト・ベジタリアン(White-vegetarian)
- レッドミート(牛、豚、羊などの獣肉)を避け、ホワイトミート(鳥肉、魚介類)だけを摂る。
- セミ・ベジタリアン (Semi-Vegetarian)
- 世間一般の人より少ない肉を食べる。フレキシタリアンとも呼ばれる。
- ペスクタリアン (Pescetarian)、ペスコ・ベジタリアン (Pesco-vegetarian)
- フィッシュ・ベジタリアンとも呼ばれ、工業的に作られた食品を避ける点がベジタリアンと違う。野菜や魚は天然のものを食べ、卵や乳製品も近代的畜産でなければ食べる。
- マクロビオティック (Macrobiotic)
- 有機栽培や地産地消などがテーマに含まれており、他とは根本的な発想がやや異なる。詳細はマクロビオティックを参照。
これらのスード・ベジタリアンを指す用語についても、ベジタリアニズムを語る上で無視はできない。
前置胎盤では、中絶を持っていることから来るのか
インド料理の多くはベジタリアン(特にラクト・ベジタリアン)用に作られている。また仏教文化から発達した精進料理もベジタリアン料理の一種である。台湾等では素食(「粗食」ではない)と呼ばれる。ちなみに精進料理でニンニク、タマネギなどを使わないのは、俗にそれらが「精をつけ情欲を増大させる」ためと説明されることがあるが、本来の意義とは違う。そうした球根類は植物の「肉体」であり、動物の場合と同様に損なうことが避けられるからである。この考えによれば、植物の枝葉や根は動物の体毛や爪にあたるもの、ということになる。切られてもまた生えてくるので、食べても構わないとされる。加えて完全な菜食を続けると、人によっては刺激が強く、そのような物を受け付けない体質に変化することがあ� ��のも理由に挙げられる。アジアン・ベジタリアン (Asian-vegetarian) と呼ばれる、主に仏教系の影響のあるベジタリアンの場合には、野菜の中でも五葷は一般に食べない[19]。
宗教改革以前からあるキリスト教の教派には、金曜日などの特定の曜日・四旬節・待降節にベジタリアン的な料理を作り、断食を守る伝統がある。これを小斎・斎(ものいみ)などと呼ぶ。もっとも厳しい節制においては、カトリックでは肉、卵、乳製品が禁じられており、正教会では更に魚肉、オリーブ油(または植物油全般)も禁じられる。しかし、肉では無く魚介であるという解釈のもとにベネズエラではカピバラ、アイルランドではカオジロガンなど水辺の鳥獣を食べてもよいとする例はあった(例として中世料理を参照)。またカトリックにおいては20世紀後半から、この趣の節制は大幅に緩和された。節制の時期等に関しては、其々の教派の項目及び教会暦を参照のこと。
ベジタリアニズムは以下のような動機によって選択される。
肉食を否定する主張には大きく2種類あり、過剰な肉の摂取を戒める主張と肉食そのものを否定する主張がある。この2つを混同している傾向も見られ、これが議論をより混乱させる要素となっている。健康のためと称しながらも、突き詰めれば別の理由に立脚している場合もある。ベジタリアニズムが単純な理由に拠らない活動であることにも絡んで、その各々の信奉者・実践者によって主張・様式もまちまちである。
[編集] 宗教
インドは不殺生戒(ア・ヒンサー)思想の発祥地であり、遅くとも2千年以上前から菜食を奨励する宗派が存在した。インドの不殺生における間接殺の回避は、ジャイナ教のように、耕す際に虫が死ぬ農業や、火中に虫が飛んで入ることを回避するため火をたいて料理することも拒否することに加え、植物の殺生を避けるため、球根類の野菜を食べることも回避するなど、肉食だけを避けるというものではない。
現在、インド発祥の宗教で、一般に言う菜食主義を奨励しているのは、肉食は避けるが、乳製品はよしとするヒンドゥー教、動物・植物の殺生だけでなく、無生物の破壊も含めて、できるだけ回避するように努めるジャイナ教が代表的である。
仏教では、自らの手で殺生をすることは禁じられているが、上座部とチベット仏教では肉食は禁じられていない。一方、中国仏教では肉食が禁じられている。インドで最近発見された経典や、北伝の初期仏教経典(阿含経)、南伝のパーリ経典によれば、釈迦は直接殺を禁じ、菜食主義を戒に含めることを明確に拒否する記述があるだけではなく、肉を食べたことが記されている。さらに、釈迦に食事を振舞うために、在家信者が肉を召使に買いに行かせた記述もある。よって、肉食は不殺生戒を破ることにならない。ただし、肉が比丘や比丘尼のためにわざわざ殺されたことを見・聞・知した場合は、この肉を食してはならないと宣言している(三種の浄肉)。さらに、在家には肉・人(奴隷)・毒・武器にかかわる職業に就いてはな� ��ないと宣言している。ただし、幾つかの病気の治療に肉をあげる記述も存在する。一見すると矛盾するが、これは当時の他宗との間接殺に解釈の相違に起因するとされている。当時に既に存在したジャイナ教は、たとえば農業においても、耕作すれば土中の生物の殺生を避けることができないため、信者は農業に従事することが禁止されていた。この世に存在する限り、間接殺は避けられないものであるため、ジャイナ教の僧は、最終行として食を断ち、餓死する。一方、中道を掲げ、極端な苦行を非難した仏教は、直接殺を避けるとともに、貪ることに戒め、全体的に間接殺を減らすのが第一であるとしている[20]。 北伝の大乗仏教の経典では、釈迦が肉食をしたとの記述はないが、肉食が不殺生戒を破ると主張をする経典も存在しない[21]。しかし、すべての生き物に対する慈愛に基づいて肉食を避けるく菩薩の道が強調されており、この論法で肉食を避けることの重要性を強調する記述が何度も見られる。この考えに則った大乗の菜食は、ジャイナ教徒の食事と似ており、肉食だけでなく、植物殺を生じる球根野菜の使用を避ける。ただしジャイナ教の僧侶のように、最終的に微生物の殺生をも避けるために、水を取ることさえ拒否し、入滅するようなことはない。中国仏教においては、南伝の経典も大まかに正統としながらも、大乗経典と食い違う部分は小乗の劣った教えとして認めない場合が多く、より厳格な菜食主義が主張される。日本仏教では、すでに鎌倉仏教が厳格な菜食主義を放棄している一方で、精進料理の伝統も続けられている。ただし 、僧の托鉢による受動的な肉食と、在家の購買による能動的な肉食は異なるとして、托鉢以外の場合は、菜食を奨励している場合もある。チベット仏教は、大乗の経典・教義を受け継いでおり、精進料理のような料理もあるが、インドの大乗後期に現れた密教の秘儀により、菜食は不要としている。
学術に基づく近代文献学が発達していることもあり、釈迦の肉食は事実とされている。
宗教において菜食主義の傾向が強い要素の中には、肉体より精神を至高のものとする禁欲主義の影響が大きいと考えられるものもある。これは、霊・精神性に対し、肉食や生殖欲が肉体性を象徴するとして罪悪視されたもの(マニ教、カタリ派、キリスト教ベジタリアニズムなど)もあるが、断食のように修行の一環として菜食主義的粗食を志向し、なかには、即身仏のように自発的殉教死に至るものもあった。
[編集] 奨励する宗教・宗派
- 大乗仏教 - 肉食を禁止している。日本での肉食は妻帯や肉食などの戒が有名無実化しているからである。
- ジャイナ教 - 卵を一切とらないだけでなく、植物を殺すことになる野菜(大根、芋、葱など)を食べない。ただし乳製品は可。
- ヒンドゥー教 - 乳製品は可。また宗派や階層、地域や家庭などによって純菜食から肉食可まで様々な段階の戒律を持つ。
- セブンスデー・アドベンチスト教会 - ベジタリアニズム(卵と乳製品は可)を奨励し、豚肉と鱗を持たない魚介類など、旧約聖書レビ記第11章で不浄とされる動物は忌避すべきとする。鶏肉と魚はどちらかというと食べても良いとする信者もいる。
- ラスタファリアニズム
- イスラム教 -教義自体は一切、肉食を否定していない。しかし、食用に用いて良い肉はハラールミート(イスラム教徒がアッラーの名を唱えて屠殺したもの)に限られる。イスラム教徒が極めて少ない地域・社会で、ハラールミートの入手が困難な状況では、菜食(乳製品と魚介類はかまわない)が求められる。ただし、飢え死にしそうな場合のように、命に関わる場合であれば豚肉や非ハラル食であろうとも食べてよいとされる。
[編集] 思想
現代西洋のニューエイジ的潮流から発したベジタリアニズムも、前述の伝統的宗教思想の影響を少なからず受け継いでいると言っていいだろう。また、動物にも一定の権利を認めるべきだとの主張をする活動家および思想家も存在する。オーストラリアの哲学者ピーター・シンガーのように、倫理学説上の理由から菜食主義をとるものもいる(彼の場合は功利主義の立場から脊椎動物のみ食べないという限定的な菜食主義)。また、欧米では動物にも人と同等の権利があるべきだとの主張をする集団も存在するが、その主張中にも、伝統的ベジタリアニズムや宗教思想への関連性を見出すことが可能である(動物の権利・後述)。こうした活動の影響を受けたり、他にも動物の屠殺の場面を見てショックを受けるなどしてベジタリアンと� ��る人がいる。
[編集] 健康
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宗教・思想上のみではなく、健康上の理由から肉食を避ける者もある。前述したベジタリアン協会の主張では、ベジタリアンの本義は「健康で活力のある人」であり、「そうなるために肉食を避ける者」であるとされている。
- 2003年には、アメリカとカナダの栄養士会は合同で専門家報告書は256つの研究を元にしており、牛乳や卵も摂取しない完全な菜食においても栄養が摂取でき、また菜食者はがん、糖尿病、肥満、高血圧、心臓病といった主要な死因に関わるような生活習慣病や認知症のリスクが減り、適切な菜食は乳児や妊娠期における全段階で可能である[22]。同年、6つの前向きコホート研究をメタアナリシスし、20年以上の菜食者は平均余命が3.6年長いと報告された[23]。
- 完全な菜食におけるリスクについて、2005年に発表されたイギリス栄養財団による報告書の要約においては、「よく計画された、バランスのとれたベジタリアンもしくはヴィーガンの食事は栄養的に十分となりうるが、厳格なマクロビオティックや生食のようなより極端な食事では、しばしばエネルギーや各種の微量栄養素が不足し、子供には全く不十分で不適切である」と述べられている[24]。
- 2007年の世界がん研究基金は、専門家による7000以上の研究を基にした報告書(Expert report)で、マクロビオティックを含むさまざまな種類のベジタリアンはがんの発症を少なくさせると報告している[25]。
- 2010年版のアメリカ合衆国農務省(USDA)「アメリカ人のための食生活指針2010年版」[26](Dietary Guidelines for Americans, 2010)による食生活指針が報告される。世界各国の研究に基づいており、科学的根拠の強弱の概念を採用している。菜食者は、がんと心臓病のリスクが低く、また血圧や肥満度指数(bmi)が低いと結論されている。なお、骨粗しょう症のリスクが高くなることにも言及されている。
- 1983から1990年にかけて行われた「中国プロジェクト」[27] は、アメリカ国立癌研究所とアメリカがん研究協会も資金提供し、アメリカのコーネル大学、イギリスのオックスフォード大学、中国のがん研究機関やほかのいくつかの国の研究機関が関与した科学研究である。中国プロジェクトを指揮した、コリン・キャンベルは、研究結果を受けてもっとも安全な食事は完全菜食であると述べ完全菜食になり、5人の子供も完全菜食で育てた[28]。中国プロジェクトでは、乳製品をまったく摂取しないが骨粗鬆症は非常に珍しいということや、鉄分は植物から摂取されており、鉄欠乏性貧血は肉の摂取と関係ないことを示した[29]。
コリン・キャンベルはコーネル大学でベジタリアンの栄養学を教えているが、1980年代以降、菜食に関する科学的な研究が蓄積されているのに肉と乳製品の摂取が必要だという視点を変えようとしない、今では科学的な研究の結果があるのに教育を受けた時代の常識を信じ込んでしまっていると指摘している[30]。 以上を支持する意見として、以下のようなものが挙げられる。
[編集] フードファディズム
特定の病気などを対象にした場合に注意が必要な食材は肉や野菜に限らず存在する。科学的根拠を無視して盲信するフードファディズムに陥らず科学的根拠を参考にすることが必要である。
- 過剰な肉食は、大量の動物性脂肪摂取を意味し、中性脂肪の増加や 内臓脂肪・皮下脂肪が増加し、同時に必要以上のタンパク質摂取につながりその結果体内で発生した過剰なアンモニア排出のために肝臓や腎臓に負担を強いることとあいまって生活習慣病などの危険性を上昇させることが指摘されている。
- 肝臓病を患っている場合には、肉の摂取が制限される場合がある。アンモニアは大豆より肉のほうが多く作るということは医学的に分かっているので、肝臓障害の場合に肉の摂取が制限されることがある[31]。
以下の食品は菜食主義でなくとも食べるものである。
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- 同様に、弁膜症治療などの治療でワーファリンを使用している人などの場合に、植物はビタミンKなど薬効を阻害するものが多いことが医学的に分かっているので、ワーファリン使用者の場合に納豆の摂取を禁止されたり緑黄色野菜の摂取が制限されることがある。
- 同様に、日本人の10%が経験するといわれる結石の原因であるシュウ酸は植物に多く、シュウ酸の摂り過ぎが尿路結石のリスクが高くなることは医学的に分かっているので、シュウ酸値が高い場合にはホウレンソウ、キャベツ、タケノコ、ナッツ頬などの摂取が制限されることがある[20]。尿路結石は、動物性たんぱく質も原因となっており、発症した場合これも制限されることがある[32]。
[編集] 肥満との関係
上述のように、アメリカとカナダの合同栄養士会とアメリカ合衆国農務省は、欧米や中国といった各国・人種の論文報告を根拠として、菜食者は肥満のリスクが低いと結論を出している。 肥満の最大の原因は摂取カロリーという説もあり、米国では菜食料理であるもののカロリーが高いフライドポテトが好まれている環境であり、肥満抑制の為にフライドポテトを排除する動きもある。
肥満に関しては、報告機関が米国であるので、以下のような指摘も呈されている。
- 例として米国における牛肉や鶏肉の過剰な摂取量と全国民の約1/2以上が肥満であることの関係を挙げられる場合があるが、米国の2~18歳の子供6500人を対象にした調査で、「野菜」全体で25%と最も多く食べているはフライドポテトであることや、摂取する果物として40%の人がジュースを挙げている[33]。
- 18歳以上の成人1000人を対象の調査で、米国人の最も好きな野菜として、回答者最多の26%がジャガイモであり、米農務省が健康のために1日に5皿の野菜を食べることを推奨しているが、米国人の98%がこの基準をジャガイモを食べることで満たしている[34]。
肥満はカロリーの過剰摂取こそが問題で、植物性油脂で揚げたフライドポテトのような食品を過剰摂取になるとの指摘もあり、米国では児童の肥満対策に学校給食(カフェテリア方式)やディズニーランドなど遊園地のレストランから、砂糖を含んだ清涼飲料水と共にフライドポテトが排除される動きが報じられている。これら児童向け肥満対策では、低カロリーであることや、未精製の全粒穀物による高炭水化物のような自然食が主な方向性となっており、必ずしも「菜食」を重視しているわけではない。
[編集] 母体からの子供への影響
- ベジタリアンの母親に尿道下裂児の出産する割合が高かったという報告から、植物性エストロゲンとの関連が示唆されている[35]。
- 妊婦が大量の抗生物質が残留した食肉類を摂取した場合、新生児に多剤耐性菌が生じる可能性が高いという。中国でも飼料に添加する抗生物質の分量が厳格に規定されているが、それが守られていないことが原因である[36]。なお、飼料に抗生物質の投与の有無や量は、国々によって違うので、単純に諸外国に当てはめられない。
[編集] 農薬や抗生物質を投与することによる食品への影響
- 2006年の初め、香港の食料雑貨店である Parknshop と Wellcome で野菜の検査を行い、70%以上のサンプルが残留農薬で汚染されていた。その食料雑貨店の80%近くの野菜は中国大陸からのものと判明。そして中国の食品研究所代表は、中国の農家は農薬の知識をほとんどもっていないと語った[37]。なお、野菜に関しては菜食者に限らず食べられる食品である。
- 畜産業での畜産動物の感染症予防を目的とした抗生物質などの使用が、耐性菌を進化させ、薬剤の効かない多剤耐性菌の発生が問題となっており[38]、多剤耐性菌「NDM1」のパンデミック(大規模な流行)が危険視されている[39]。2010年6月28日、米食品医薬品局(FDA)が畜産業界に使用量を減らすよう指針案を出している[38]。欧州では2006年より、成長促進を目的とした抗生物質の投与を全面禁止している[38]。
どちらのケースも当然ではあるが、摂取量が多いほどリスクが高くなる。 しかし、ベジタリアンと非ベジタリアンの摂取量の比較は不明である。
[編集] 完全菜食における必須栄養素の摂取
- 完全菜食では、ビタミンB12が不足しがちである。これには、完全菜食ではなく、魚貝類や無精卵、乳製品を摂取するという方法もある。なお菜食者に限らず、鉄分、亜鉛、ω-3,6系不飽和脂肪酸の摂取にも気をつける必要がある。完全菜食の場合、サプリメントや添加食品で摂取しなければならない栄養素もある。
[編集] ビタミンB12の植物による摂取源
- 特殊な手法によりビタミンB12を含有させたカイワレ大根があり、販売されている[40]。
ただし、この「マルチビタミンB12かいわれ」は食品添加物に使用されているビタミンB12の水溶液をかいわれに吸収させたものである[41]。
- 食品としては、海苔がビタミンB12の摂取源として有効かどうかに賛否両論がある。
[編集] 海苔がビタミンB12の摂取源となるかの考察
- 文部科学省の発行する五訂増補日本食品標準成分表では海苔類はビタミンB12を含有するとされている[42]。
- しかし、五訂増補日本食品標準成分表に掲載されている海苔のビタミンB12含有量は、近年の主流となってきた化学発光免疫測定法に基づく自動分析法ではなく、測定精度が低く、なおかつ熟練を要する微生物法により測定された値である [21]。
- 市販の複数の藻類のビタミンB12含有量を微生物法と化学発光法で測定した結果、スジアオノリとスサビノリが多量に含有するビタミンB12のほとんどが生理的に有効なOH-B12であり、人間が対象ではなく参考ではあるが、ビタミンB12欠乏ラットを用いた実験ではこれらの海苔がビタミンB12供給源として有効であると報告されている[43]。
- 乾燥状態のスジアオノリ、スサビノリ、クロレラに含まれるビタミンB12は生理的に有効なビタミンB12であり、スサビノリから単離したビタミンB12を、人間ではないので参考ではあるが、ビタミンB12欠乏ラットを投与したところ供給源として有効と報告されている[44]。
- 2002年に複数の文献を検査した海外の報告によれば、生海苔を乾燥させた乾燥海苔はビタミンB12の供給源にならないという報告や、海苔を摂取することで体内ビタミンB12状態を悪化させるかもしれないと結論された研究も存在しており、テンペ、生海苔、円石藻類のみがビタミンB12源として確実な摂取源であるかさらに研究されるべきであるとする報告もある[45][46]。
- 日本の研究者は、海外では藻類を食する文化がないため、適切でない乾燥方法を用いた藻類のビタミンB12が生理的に不活性になることがあるという報告があると指摘している[44]。
- 1995年に、鈴木英鷹が行った調査では、厳格な玄米菜食の菜食歴4~10年の7~14歳の子供6名を対象とした研究において、1日あたり2~4gの海苔を摂取した場合、コントロール群とビタミンB12値などに有意差がないために、厳格な玄米菜食を行う子供でも海苔を食べることによってビタミンB12の欠乏を防ぐことができると報告している[47]。この研究は血清ビタミンB12値とMCV(平均赤血球容積)だけの計測結果である。血清ビタミンB12値は、ビタミンB12欠乏症を悪化させる可能性のある有害なビタミンB12類似体もビタミンB12として計測されてしまうために、海苔を食べることによってビタミンB12の欠乏を防げるという主張は根拠に乏しく、逆に乾燥海苔では悪化するという研究があり、またその研究では生海苔は有効なビタミンB12の供給源と結論付けたが、統計上有意な差は無いという判断もある。[48][49]
- 同じ研究者が2003年に生後より厳格な玄米菜食をしている小中高生の菜食者6名(男4名、女2名)を対象にした研究において、1日あたり海苔を0~2グラム摂取していた2名は、体内ビタミンB12の減少を示す尿中メチルマロン酸の上昇を示したものの、1日あたり海苔を4グラム以上摂取していた4名は尿中メチルマロン酸の上昇を示さなかったことから、海苔を毎日4グラム以上摂取することで、ビタミンB12の供給源になることが示唆された[50]。
詳細は「シアノコバラミン」を参照
[編集] 健康被害の可能性
以下は個別の研究事例であり、上述のようなメタアナリシスやシステマティックレビューのような科学的根拠の質が高いとされる研究報告より科学的根拠が弱い個別の事例である。
詳細は「根拠に基づいた医療#勧告の強さの分類 / エビデンスレベルの分類」を参照
[編集] 菜食者を対象とした研究報告
- 鈴木英鷹と渡部由美による「菜食者18名を対象とした研究において、菜食者の44%がタンパク質必要量を摂取しておらず、エネルギー、その他の栄養素が顕著に低い[51]。なお、国民栄養調査における同年代のタンパク質平均充足率は不足していない[52]。
- インドで外来患者4680人を対象にした5年間にわたる調査において、ビタミンB12レベルが低い患者の大半がベジタリアンであり、ベジタリアンが心疾患や脳梗塞 など発症するリスクは非ベジタリアンの約4倍である[53][54][55]。医師は、「非ベジタリアン食を推奨しているわけではない。しかしこれは研究結果であり、ベジタリアンである人々はビタミンB12サプリメントを飲む必要がある」とコメントしている[56]。
- オーストラリアとベトナムが2700人を対象にした調査では、ベジタリアンの骨密度は、肉食者に比べて平均で5%低い[57]。ただし、ガーバン医学研究所のトゥアン・グエンは、「骨密度と骨折リスクの関係は不明」としながらも、「欧米のベジタリアン人口は全人口の約5%を占め、その数は増え続けている。また、骨粗しょう症患者の数も世界的に増加傾向にあり、調査結果は考慮に値する」というコメントや、「厳格な菜食主義であるヴィーガンのほうが骨密度が低いが骨折率は高いわけではなく、健康を意識している傾向がある。また全体的にみればベジタリアンは長生きで、高血圧と心臓病リスクが低い傾向がある」とコメントしている[58]。
[編集] 菜食者を対象としていないが、ビタミンB12に関する研究報告
- ビタミンB12不足は、完全菜食のほかに胃や腸の異常から発生することもある。
- オックスフォード大学が61歳から87歳の107人に対して行った研究によると、ビタミンB12濃度が最も低い群は脳収縮を引き起こす可能性が6倍高いと報告されているが、菜食者を対象とした研究であるかは詳説されていない[59]。
- 278人の女性を対象とした研究で、受胎前後の血中ビタミンB12濃度が低い女性から産まれる子どもの神経管欠損リスクは5倍であったため、トリニティ・カレッジ (ダブリン大学) とイタリアの医学研究委員会(Health Research Board)研究者は「ビタミンB12は動物由来のために女性の菜食主義者は危険性が高くなる可能性がある」とコメントしている[60]。
[編集] 環境保護・動物の権利・人道主義
ベジタリアンには、動物保護および健康増進という考え方以外に、エコロジーを主な根拠としている人もいる。
[編集] 効率性
牛肉 | 豚肉 | 鶏肉 | 鶏卵 |
11 kg | 7 kg | 4 kg | 3 kg |
- 1970年代に、フランシス・ムア・ラッペが、タンパク質を得るためには畜産は効率が悪いと著書で執筆した[62]。
畜産には、動物の飼育が伴うが、穀物や牧草を家畜の飼料に回して得られる食肉より、同じ土地面積に、人間が直接食べる農作物を作付けした方が、遥かに多くの人を賄う分の食料を生産できる。飼料の生産のために消費される化石燃料(後述の温室効果ガスを参照)や水資源(仮想水を参照)も節約できる。 以下のような意見もある。
birthcontrolは流産することができますか?
- 食用農作物を育てることが難しい土地でも、飼料用農作物を作付けすることができる。家畜飼料稲は人間の食用種と品種が違う。そのため一般食料種の米の重さを比較した場合、1.5倍から1.7倍にも達する種もあり、さらに飼料用稲は一般的に密植・密播栽培で多収となる。食用品種と比較して耐倒伏性は高いものが多く、人間が食するものと違い収穫量も多く、天候や害虫に強いといった面や、耐病性が高く農薬コストを抑えられるなど、食用品種と比較して無事に収穫できるまでのコストや手間が大きく異なるなどのメリットが存在し、単純に人間の食料用との比較をすることができない [22]。
- 2001年に日本で行われた食肉フォーラムのように、プロテインスコアを根拠に食事からタンパク質を得るために畜肉を食べることは菜食よりも効率が良いとの主張があるが[63]、現行の栄養学で用いられているのはアミノ酸スコアである。
- しかし、アミノ酸スコアにおいて、植物で畜肉を食べるのと同等の効率を考慮すると、様々な植物性の食材を組み合わせても、多くを大豆に頼る必要が出てくる可能性が出てくる[要出典]。大豆は食品安全委員会の発表において、食事からの大豆イソフラボンの摂取量を1日70~75ミリグラムを上限とし、またイタリアにおいては、植物エストロゲン、大豆イソフラボンを補完した食品による一日摂取量を80ミリグラム/日を超えないようにとの勧告が出されるなど、サプリメントでの摂取過剰が懸念されているが、大豆や大豆加工食品が問題視されているわけではない[64]。
また、母体からの子供への影響の項目であるように、ベジタリアンの母親に尿道下裂児の出産する割合が高かったという報告から、植物性エストロゲンとの関連が示唆されている[65]。 大豆に含まれるイソフラボンが、代表的な植物エストロゲンであり、一部のがんや更年期障害、2型糖尿病、骨粗鬆症の予防効果が確認されている。
詳細は「イソフラボン」を参照
危険視されることがあるエストロゲン受容体へのプロモーターには、ポリ塩化ビフェニルといったダイオキシン類があり発がん性や催奇形性が確認されており、生物濃縮されるために動物性食品から多く摂取されることになる。
詳細は「ダイオキシン類」を参照
[編集] 食料自給率や飲食物の確保の問題
- 日本での畜産も、資源の浪費や環境危機といった側面を持っている。大量の輸入飼料を必要とする畜産物の消費量が増えたことは食料自給率の低下の要因の一つとなっている[61]。日本での食料自給率の低下は、海外で枯渇が懸念される地下水を使うことにつながり、[66]、フードマイレージ(食料の輸送距離)を増加させ輸送のためのエネルギー消費を増大させている、という。
- しかし日本での農産業も、資源の浪費や環境危機といった側面を持っている。大量の肥料を必要とする農産物の消費量が増えたことは食料自給率の低下の要因の一つとなっている [23]。
- 世界の肥料価格は2007年で2倍にもなっている。人類が紀元前3000年の頃から始めた農業の歴史上、不足し続けているのがリン酸である。その原料のリン鉱石の枯渇がいま心配されているのである。リン鉱石の80%が肥料用に使用されており、英国硫黄誌(British Sulphur Publishing)によると、最悪のシナリオとして過去の消費から年3%の伸びを見込むと消費量は2060年代には現在の約5倍になり、経済的に採掘可能なリン鉱石は枯渇してしまうことになると予測している。現実的なシナリオでは2060年代に残存鉱量は50%になるとしている。国際肥料工業会 (International Fertilizer Industry Association) によると、リン酸肥料が使用される主な作物とその割合は、小麦が18%、野菜・果物が16%、米、トウモロコシがそれぞれ13%、大豆が8%、サトウキビが3%、綿花4%となっている[67]。
- 肥料の3大要素といえばリン、窒素、カリウム。この3つがなければ日本の農業は成立しない。にもかかわらず、日本はリン鉱石の全量を輸入に頼っており、その多くを中国に依存。もともと、危うい立場にあった。今後、さらに入手困難になれば、中国や米国以外の国も自国の農業のために禁輸措置に動く可能性もある。そうなれば、日本の農業は窮地に立たされる[68]。
これらに対しては、現代の食料生産および分配のシステムに問題があるという観点から、以下のような批判も呈されている。
- 人道的な面では、地域的な貧困や食料分配の不公平も解決しなければ、菜食社会でも飢餓は発生し得る。これは、フランシス・ムア・ラッペが後に、『食糧第一-食糧危機神話の虚構性を衝く』の運動を起こした理由である[69][70]。
- 消費者が地産地消を固く守らない限り、様々な産地から農作物を輸送する際にかかる金銭的・資源的なコスト負担も無視できない(フードマイレージを参照)。
[編集] 環境破壊
- 2006年、国際連合食糧農業機関 (FAO) は畜産が環境破壊への主な脅威であるという報告をしている[71]。
以下のような、批判も呈されている。
- 畜産に限らず、先進国など大消費地の需要を賄う大規模プランテーションを含む収穫量の増大を目指した近代農法も、農薬の大量使用による環境への負荷を発生させている。
[編集] 温室効果ガス排出
- 2008年1月、自身がベジタリアンでもある気候変動に関する政府間パネル (IPCC) のラジェンドラ・パチャウリ議長は、肉は生産過程で二酸化炭素を大量に排出し輸送でもエネルギーを使用するので、肉の消費を減らすことは個人ができる温暖化対策の一つであると述べた[72]。ラジェンドラ・パチャウリ議長は、畜産産業からの温室効果ガスの排出量は世界中の約20%であるとし、イギリス政府に2020年までに国内の食肉消費量を60%減らすことを求めている[73]。
- レスター・R・ブラウンの設立したワールドウォッチ研究所の報告によれば、畜産業は輸送などを含め世界中の温室効果ガスの51%を排出している[74]。
温室効果ガスの記事も参照されたい。
詳細は「温室効果ガス」を参照
[編集] メタンガスに限って
ウシなどの反芻動物は消化の際にCO2の20倍以上の温室効果を持つメタンガスを大量に排出しているという。
- しかし、実際には、農業排出区分から水田だけを対象にした米国環境保護庁 (EPA) の報告書で、水田(稲作)のメタン放出量は年間6000万~1億7000万トンであり、家畜からのメタン発生量は年間6500万~8500万トンと推定される [24]。
- なお、ウシなどの反芻動物は消化の際に排出されるメタンガスの日本国内の年間排出量は、国内の温室効果ガスの年間排出量(二酸化炭素換算)の約0.5%ほどの微量である [25]。
[編集] 倫理学
なお上に挙げた菜食推進のエコロジー的論拠以外にも「動物の権利」運動の延長で、家畜を殺傷することに対する忌避感もあり、この種の「視点と価値観」による議論や論争は様々なところに見出され、これには種差別の概念も絡んで更に複雑である。なお農作物の収穫に影響を与える昆虫(害虫や益虫)とそれら昆虫に影響される生態系など、畜産を含む農業・農薬の影響を被るであろう生物群・環境に関する議論もエコロジー推進派内外に見られ、こういった問題が菜食主義やベジタリアニズムおよびエコロジーのみに収斂できない面があるため、単純ではない。
1970年代に、ピーター・シンガーは『動物の解放』[75] において、畜産は動物の数において動物虐待が行われている数が多いと主張した。工業化されすぎた畜産のシステムは、省スペースで高効率を求めるため、過密状態での飼育、病気の放置、豚の尾や鶏のクチバシの切断が行われる。
殺す際にも欧州などでは安楽処置される場合もあるが、一般的には安楽処置がされているわけではない[75]。
これらの思想の根底には、環境倫理や生命倫理の平等思想に基づいた人道主義の観点といった哲学的な思想がある。
[編集] メディア・ファッション
- 著名人が行っていることから、あるいは他人と違うライフスタイルであることから、ベジタリアニズムを選択する人もいる。中にはベジタリアンであることを公言しながら、肉食を行っていると非難される人もいる。
- イギリスでは1984年から公共放送の英国放送協会 (BBC) が「ベジタリアン・キッチン」というテレビ番組を放映したことでベジタリアンの実践者を増やした。
- 日本では、2008年からベジタリアン・ライフスタイルの専門誌として「ベジィ・ステディ・ゴー!」という雑誌が出版されている。
[編集] 日本におけるベジタリアニズム
「日本の獣肉食の歴史」も参照
日本におけるベジタリアニズムは以下のように変化している。
[編集] 近代以前
鎌倉時代以前の日本では仏教の僧侶は大乗仏教であるため肉食が認められなかったことから、しばしば近代以前の日本は菜食主義であったとみなされることがある。しかし、鎌倉仏教が肉食の厳格な禁止をやめたため、日本では、厳密な菜食はあくまで寺での修行においてのみの行われることとなるが、この環境で利用される精進料理は、大豆やその加工食品(豆腐やゆば)など、タンパク質豊富な豆類を積極的に取り入れるなどしており、また、他にも、野菜から木の実・キノコ類・山菜など、様々な食材を幅広く利用していたことから、経験的に栄養バランスをとろうと工夫した様子も窺える。
また皇室や貴族社会においても、仏教思想、稲作信仰、伝統的神道の穢れ的観点から、魚や鳥は食べても獣の肉を食べることはほとんどなかった。
なお、僧侶の食生活においては、托鉢で比較的栄養バランスのとれた料理を口にする機会が多かったり、あるいは、「四足の獣」を殺して食べることは戒めたが、足のない魚や、動物から省かれていた卵は食べられていた。また、三種の浄肉では、不殺生を旨とする僧侶も、寄付された肉類は食べてよいことになっている。
僧侶以外では、家畜の食用はほとんど行われず、山間部を除くと獣類の食用は少なかったが、魚類と鳥類の肉は食べられていただけでなく、家禽やウサギ、一部の地域では鯨類が食用とされ、内陸の地方では昆虫食も珍しくなかった。また、禅やその影響を受けた茶の湯(現在の茶道)において、精進料理の影響を受けて発達した懐石料理は、多少魚介類なども採り入れており、菜食主義からは遠ざかっている(他方、江戸時代に伝来した黄檗宗の影響を受けて発達した普茶料理は完全菜食主義的である)。このため、日本の伝統的な食生活がいわゆるペスクタリアン(上記)と同様の食生活だったとするのは厳密には誤りとなるが、日本農業が牧畜や養豚を欠いており、家畜を食用とする習慣がなかったという特殊事情� ��ら、普段はペスクタリアンに近い食生活を送っていた民は多かったと推測される。
[編集] 日本の近代化と食文化の変化
江戸時代後期から江戸などの都市部ではももんじ屋における肉食が一部で流行していたが、明治期に入ると、日本の食文化は西洋の食文化に栄養面で劣っており、日本人の体格を向上させ健康を促進し、ひいては国力を増強(富国強兵)するためには西洋的な食品、特に肉類や乳製品の摂取が不可欠であるという考えが主流となった。そして、この時期の文明開化の機運に乗って、仮名垣魯文の『安愚楽鍋』における「牛鍋(うしなべ)食はねば開化不進奴(ひらけぬやつ)」のくだりは広く人口に膾炙した。
これに従い、神道の宗教家の反対にもかかわらず明治天皇が肉を食べ、昭憲皇太后が牛乳を飲むなど、国家の元首自ら国民の模範となった。さらに、廃仏毀釈の影響も伴って日本人は家畜類も食用とするようになった。まだこの時代には魚類も肉も頻繁には食べられていなかった[76]。
[編集] 現代日本における「菜食主義」のイメージ
精進料理の思想では、「より高い精神性を獲得する(=精進する)ために、菜食を主体とした食事をとる」という面で、原義のベジタリアニズムに近いものを持つ。しかし上述の「菜食主義(者)」という訳語の誤った印象もあり、ベジタリアニズムは近代以降の日本において一種の健康ブーム的な側面が強調され、正確に理解されていない面もある。ひどい時にはただの偏食と同列に看做される場合さえある。
また、近代以前の日本においては一部の層以外思想・信条等の違いについて格別の意識を持たなかった経緯が現代にも引き継がれ、国際化が進んだ現状のもとでも、文化間での食習慣の違いや食のタブーについても無頓着であることが多く、宗教的観念の希薄さにも関連付けて見る事もできる。違った文化の人達が国境を越えて交じり合うようになった国際化社会のなかで、このような傾向を警戒する識者も見られる。
その一方で、伝統的日本食はコメ・大豆・野菜を中心に魚類を配したものであり、宗教上のベジタリアンは存在したものの、欧米のように動物性タンパク質に偏った食生活への反省・反動から生じたベジタリアニズムを言い立てる必要が元からなかった以上、食のタブーを今更強調することには無理があるという意見も存在する。
[編集] 著名なベジタリアン
「著名なベジタリアンの一覧」を参照
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- ^ 正食協会西日本で桜沢如一の運動を広めている古い普及団体 [2] 魚介類が中心の動物性食品を1~2の割合摂取が目安
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[編集] 参考文献
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[編集] 関連項目
- ヴィーガニズム
- 拡張プラウト主義 - 菜食主義を奨励している次世代社会システム。
- 北浦三育中学校 - 菜食を実施している全寮制中学校(卵乳菜食)。
- 機内食 - 国際線の特別食としてベジタリアン料理の設定がある。
- キリスト教ベジタリアニズム
- 禁葷食
- グリーンピース (NGO)
- 健康法
- 国際ベジタリアン連合
- 三育フーズ
- シーシェパード
- 精進料理
- ダイエット
- 台湾素食
- デトックス
- 動物の権利
- トーファーキー
- ピースフード - 平和を築くために"食"というフィールドにおいてできることに関する提案。
- ピーター・シンガー
- ビジテリアン大祭 - 菜食主義をテーマにした宮沢賢治の短編小説。
- 広島三育学院高等学校・中学校・大和小学校 - 菜食を実施している全寮制中学高校(卵乳菜食)。
- ブリザリアン - 水を中心とした液体を摂取するだけで生活している人々。
- マクロビオティック(穀物菜食)
- 野菜嫌い
- リバウンド
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